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第 10 回 環境に残留する化学物質 ―市民の気づきが社会を動かすー

高田先生
 
高田 秀重
東京農工大学 環境資源科学科 教授
研究分野:環境汚染解析分野

東京農工大学 研究室のホームページ:
http://www.tuat.ac.jp/~gaia/Index.html
 

▼ 経常的な調査で環境のベースラインを把握する
▼ 必要なのは想像力。経験から教訓をくみ出す
▼ 海流、地形、生物との関係。プロジェクトで協同し総合化へ
▼ プラスチックは汚染物質の運び屋。市民の「気づき」のために

経常的な調査で環境のベースラインを把握する

メーユ
 高田教授は、陸から海に運ばれた“汚染物質”を調べる小川班のメンバーです。今日は小川班長と一緒にお話しをうかがいます。高田教授のグループは、班の中でどういったことを調査しているのですか?
高田先生
 地震にともなう津波の主に引き波で、陸上にあったものが海に流されましたが、家屋や木材の他、さまざまな人間活動由来の化学物質も流されました。それから、海底には震災以前からいろいろと有害な化学物質もたまっていて、それが津波で攪乱され水の中に入ってくることが考えられました。汚染物質を調べている研究者の間では、震災直後から、そうした汚染物質が生物にとりこまれるかもしれないという懸念がありました。
 TEAMSのプロジェクト(東北マリンサイエンス拠点形成事業)が始まるまでは、系統的・継続的にそれを調べて評価するという事が行われていなかったので、どんな有害物質が海に入ってきて、震災以前に比べてその濃度が上がっているのかどうか、それから、それがだんだん改善していくはずなので、改善していって良い状態になっているのかどうか、そうしたことを私たちの測定によって調べて、皆さんにお伝えしようと考えました。
メーユ
 具体的に測定しているのはどういったものなのでしょう?
高田先生
 イガイ(ムール貝)を汚染モニタリングの指標生物として調べる“マッセルウォッチ” は大気海洋研究所(以下:大海研)でも杉原さんたちが取り組んでいますね。大海研は貝の殻の方ですが、私たちは身の方を調べています。貝は栄養を摂るために水を濾しますが、その時、身の脂肪の部分に私たちが対象としているような化学物質がたまってくるので、身の中を測ることによって貝の周りの水の汚染を調べようとしています。
 わかりやすい例でいえば、重油タンクやガソリンスタンドなどが流されて、石油汚染が起こったけれども、そういうものも貝の身の方、身の中の脂肪分にたまります。油同士はひきつけやすいので、油は油にたまってくるのですね。

イガイを採取 軟体部を取り出す ホモジナイズ(均質化)

【写真左:イガイを採取。中央:イガイの軟体部を取り出す。右:均質化して分析】
考えるメーユ
 殻の方は日周ごとに刻まれる“輪紋”があって、そこに残された成分を測ることで、一つの貝殻からその時々の環境が“カレンダー付のタイムカプセル”のようにわかると聞きました。身の方もそんなことができるのですか?
高田先生
 貝の身はだいたい3か月くらいで周りの水と同じ様子になります。2011年9月にサンプリングを始めましたが、そんなに長期間は成分が残らないので、毎年同じ地点で貝をとって、その時その時の様子を調べています。
メーユ
 イガイの身を調べて、今まででわかったことは何ですか?
高田先生
 石油汚染については、2011年・2012年は震災前と比べて汚染のレベルが高いとわかりました。TEAMSの調査では、北は大槌から南は大津漁港までの十数地点(図1)で石油の中に入っている化学物質(PAHs)を測っています。震災前の調査はこれと別の目的で行った全国調査ですが、2001年から2004年の、北海道から種子島まで(図2)の記録があります。

TEAMS調査地点2011-2014 全国調査地点2001-2004

【図1:2011‐2014 TEAMS調査地点】【図2:2001‐2004 全国調査地点】

 震災直後は重油火災があった地域等で汚染が顕著でした。翌年もまだ影響が続いていたと思われますが、2013年からは下がってきたことがわかっています。全般に2011年は高かったけれど、その後は減っています。それから復興が進んで漁業が活発になったためか、場所によっては2013年以降に高くなっています。漁船がたくさん停まっているところで貝をとっているので、表面の油膜などにさらされたものではないかと思います。
 どれくらい危険なのか、食べて大丈夫なのかということは、この物質については日本では基準がありませんが、EUでは海産物としての基準があります。それと比べてどの地点でも、今のレベルであれば全く問題ない数値です。
にっこりメーユ
 よかった! マッセルウォッチは今後も続けるのですか?
高田先生
 マッセルウォッチは今後も毎年続けて、汚染のレベルがどういうふうに下がり、下がったところで安定しているかどうかを調べておこうと思っています。
 こうしたモニタリングのプロジェクトでよく問題とされるのが、いつも何か起こるまで調査が行われないことですね。震災があって、「では汚染が起こったかもしれないので測ってみよう」ということになるわけですが、事故や汚染が起こる前のベースラインのデータがとられていないので、なかなか比較もできないし、汚染が本当にその事故由来なのか判断しかねる面もあります。それから汚染のレベルが下がって行って、どこまで下がったら「元に戻りましたよ」という、“安全宣言”というのも出していいのかどうか、たしかに下がるけれどそういうこともわからない。事故が起こる前から経常的に監視をやっていないとダメなのですね。
メーユ
 せっかく始めたのだから、定期的に続ければベースラインを知ることができますね。
高田先生
 現在、汚染はだいぶ落ち着いてきてはいますが、東北の環境状態のベースラインはおさえておく必要があると思っています。この十数地点は毎年、最低このプロジェクトが終わるまでは続けていこうと思っています。

必要なのは想像力。経験から教訓をくみ出す

メーユ
 他に調べている物質は……、「LABs 直鎖アルキルベンゼン」って何でしょう?  
高田先生
 これはスーパーマーケットで普通に売っている合成洗剤に入っている物質です。洗剤というのは水に溶けないと使えないので、溶けるように原料となる物質を加工しています。原料となるのは石油のような物質ですが、加工しても元の物資は微量に残っているのですね。これは水に溶けない油に近い性質を持つので、貝にたまるのです。
考えるメーユ
 ……考えてみなかったけど、洗剤もたくさん海に出たのでしょうね。
高田先生
 例えば仙台港は震災で下水道が損壊を受けて機能していなかったため、この物質が取り除かれずに海に入っていって、濃度が高かったと考えられます。その後、下水道が復旧したところは濃度が下がっています。
 一方で、震災後数年して逆に増えているところもあります。もともとそんなに下水道が普及していないところです。震災によって人間活動が停滞していたのが、復興してきて、洗剤をふくめていろいろなものが使われているようになりました。2013年には漁港も整備されたので、その影響ではないかと考えられます。

LABs濃度推移
【図3:合成洗剤由来の化学物質(LABs)濃度の推移】

 震災直後は、避難生活の中でも洗濯はしなくてはならないということで、洗剤メーカーから合成洗剤が配られたりしました。善意だと思いますが、よく考えれば下水処理場が損壊しているというのは予想できることですね。聞いた時は合成洗剤を配るのはいかがなものかと思いましたが……、しかし私たちも、自分たちのデータを見てやはりそうだったのか、と思いました。
困ったメーユ
 想像力が必要ですね。次はあってほしくないけれども、教訓にするしかないのかな。
高田先生
 次はあってほしくないけれども、モニタリングというのは、万が一の時に備える保険のようなもので、常にやり続けなければならないと思います。その中から教訓をくみ出さなければなりません。
 それから、これほど大きな地震というのはめったにないと思いますが、三陸ではもう少し規模の小さな地震と津波もある程度の頻度で起きています。そうすると海底にたまっているものの巻き上がりが起こりやすくなることが考えられます。海底にどんなものがたまって、どこまで広がっているのかということをよく理解しておかないと、小さな津波があった時に、影響がどれくらい出るのか考えにくいですね。それで、陸からきたものがどれくらい沿岸にたまって、どれくらい沖まで出ているのかということを調べています。
困ったメーユ
 きれいに見える海も海底の泥の中には、震災前のものから震災後のものまで、汚染物質がたまっているのですね。
高田先生
 そうですね。実は、泥の中にはまだ石油成分がたまっているところもあります。小規模な津波が来て泥が巻き上がり、貝を汚染してまた濃度が上がることが考えられます。たまっている物はなるべく浄化し泥をどけるとか、あるいは覆土、きれいな砂をかけて、小規模な津波では巻き上がらないようにする、ということを考えていかなければなりません。これからは復興のために水の中も含めて工事をするので、その時、泥の中にまだ汚染物質がある事を意識して、巻き上がらない対策をとって工事ができるよう、こうしたデータをとっておくことが大事だと思います。
 「底質の環境を含めた対策が必要ですよ」ということを、行政に訴えていかなければなりませんし、そうしたことは水産庁の方に提案しています。今はいいけれど、時限爆弾を持っているようなものですからね。機会があれば、風評被害にならないような形で行政にお伝えしているところです。


海流、地形、生物との関係。プロジェクトで協同し総合化へ

メーユ
 もうひとつの課題、「陸起源物質(天然物質)」の調査とはどういうことですか?
高田先生
 そもそも私や小川さんは、震災の影響ということ以前にもう少し一般的な意味で、陸から物がどういうふうに沖合に流れるのか、数キロ、場合によっては数百キロに運ばれるという事に関心があって研究を進めてきました。
 普段でも陸から出たものというのは海に運ばれて行き、海底にたまっていて、陸に近いところから離れたところまで運ばれているわけですが、このプロジェクトでは、それが津波の引き波でもっと沖へ運ばれたのではないかと思い、“海の泥の中の、陸上にある物質”を測ることで調べられないか、と考えました。それが“リグニン”という木の成分、陸上にしかない高分子です。リグニンは海のプランクトンは作らないものなので、これを測って調べています。
考えるメーユ
 そうすると、結構沖合までの地点を調べているということですか?
高田先生
 最初は比較的沿岸、大槌湾内を中心に調べていたのですが、ここ1~2年は新青丸で沖合の試料をとるようになりました。「引き波によってどれくらい外まで運ばれているのか」ということを知ろうと、湾口から15キロくらいの地点までを調べています。調査地点のひとつは、他の班とも一緒に行っているラインで、あとはTEAMSとしてやっていこうと決めた女川からのラインと釜石からのラインです。とった試料を分けてもらい、研究室に帰ってから測定をしていますが、それが結構たまってきて、面白い結果が得られています。
考えるメーユ
 面白い結果というと……?
小川先生
 小川:調査によって、どこまで引き波で陸起源の物質が運ばれたかということが見えてきたのです。大槌湾の沖合の測点のうち、OT3とOT4の間で、非常に濃度が下がるところが発見されました。おそらくOT3-3までは運ばれていて、OT3-4までは届いていない、大槌湾の湾口からだいたい10キロくらいまで運ばれたということがわかっています。ですから、もう少しその間を詰めていこうということを考えています。

マルチプルコアラ―による採泥 コア試料

【写真左:柱状採泥器による採泥 右:コア試料(柱状体積物)】

陸起源有機物の分布

【図4:コア試料の採取地点と陸起源有機物の分布】

津波運搬による陸起源有機物はOT3-3まで到達していたことがわかってきた。

メーユ
 これって海流とか物理と関係あります?
小川先生
 ええ、それが大事なことです。物理系の研究者、モデリングを行っている班と協力して、こういったところまで陸の物が運ばれていくメカニズムを協同して明らかにしていくことが、今後必要だと思っています。参照:メーユ通信3号「海の水はどこから来て、どこに行くのか?」
 もうひとつは底生生物、「ベントス」と言いますが、ベントスを調べている研究者らとの協力です。今回の調査結果は、ベントスのエサとなる有機物の質が変わっている可能性も示しています。つまりもともと底質には海洋の植物プランクトンが作った有機物が積もっていましたが、陸から来た有機物に置き換わっている事が示されたわけです。彼らにとってはもしかしたら、食べ物が変わってきているので、種組成や個体数なども連動して変わっている可能性があります。底質の変化がベントスの生息環境に何か影響を及ぼしているのかということも協力して調べていきたいと思っています。
メーユ
 なるほど。たしかにベントスは、水の中を漂うプランクトンや、自力で泳いで動き回るネクトンよりも直接的に影響を受けていそうですね。
小川先生
 それから、多くの汚染物質は水に溶けにくい性質を持っていて、何かにくっついて運ばれてきている可能性があります。それを、こうしたリグニンなどの陸起源の天然有機物を測る事によって、輸送のメカニズムを解明しようとしています。
 もうひとつ気になる点は、このOT3とOT4の間で崖になっているということです。三陸沖というのは日本海溝という8000メートルのもの凄く深い谷があり、谷に向かってズルズルズルッと崖になっています。われわれが突きとめた場所は崖の途中で、その先に到達していないかもしれませんが、これから先、海溝に向かって落ちていく可能性も考えられます。まだいくつか課題が残されています。
 つまり地形も関係あるので、今度はシービームという観測装置を使っているグループと一緒に新青丸に乗り、われわれが泥を採るところの地形を細かく調べてもらおうと考えています。
にっこりメーユ
 TEAMSならではの、総合的な調査に入っているのですね。
小川先生
 それがプロジェクトの非常によいところです。3年4年やって得られた成果の拡張ですね。より多面的な解析を進めていくためにも、他のグループとの協同をより強化していくことがこれからの課題です。


プラスチックは汚染物質の運び屋。市民の「気づき」のために

メーユ
 TEAMSが始まる以前の高田教授の研究は、本来どういったことがテーマなのですか?
高田先生
 陸上の物質が海にどう運ばれているのかということ、汚染物質をいろいろはかっていくというのが、TEAMSが始まる前から私たちがやっていた仕事です。貝の中の汚染物質と、堆積物の中の汚染物質を測って、それがどこからきているのか、どんな状態なのかということを調べてきましたが、震災があり何か貢献できないかなと思っているところに、お声をかけて頂いて、今までやっていた手法が適応できました。
 汚染物質をはかるのが元々の仕事で、その中のひとつが貝や堆積物でしたが、プラスチックも汚染物質を運ぶ“運び屋”になるのではと注目し、1998年頃から調べています。
にっこりメーユ
 高田教授はプラスチック汚染研究のエキスパートですね。
高田先生
 堆積物というのは最終的には海底に沈むもので、基本的にその多くが陸の近くに沈んでいると思いますが、プラスチックは浮いて、沈まずにずっと遠くまで流れてくという点が、“汚染物質の運び屋”としての特徴です。例えばベーリング海、とてもきれいな海ですが、そこまでは日本から出た泥が運ばれることはないものの、プラスチックは浮いて流され、たどり着いてしまいます。もともと汚染物質もないきれいな海域なのに、プラスチックが汚染物質を運んできてしまうと、そこに棲んでいる生物は汚染物質に曝露されてしまう。そうした問題を研究しています。

ミッドウェー島のアホウドリ 誤飲・摂食したプラスチックゴミ 生物組織への化学物質移行

【写真左:ミッドウェー島のアホウドリ 右:アホウドリの誤飲摂食したプラスチックゴミ】
【図5:生物組織への化学物質移行の可能性】

メーユ
 ウミガメがビニール袋をクラゲと間違えて食べてしまう映像を見たことがあります。鯨や海鳥や小さい生物まで、いろいろな生き物が餌と区別がつかずにとりこんでしまうのでしょう? それから高田教授は、“レジンペレット”というプラスチック製品の原料となる物質の調査も行っていますよね。
高田先生
 “レジンペレット”はプラスチック製品を製造する過程で、非意図的に排出されます。プラスチックの原料ですが石油から合成されるもので、20㎏くらいの単位で袋に入れて運ばれ、工場ではそのレジンペレットを溶かし、型に入れ、冷やして、容器などの形にしていきます。その過程で取り扱いの際に手からこぼれたり、袋がちょっと破れてこぼれるなどして環境中に出ると、雨が降り水路に入って、ポリプロピレンやポリエチレンは水より軽いので、川に入って、海に出ていくのですね。
近くにこういうものを作る工場がなくても、無人島でもこういうものが落ちています。先進国ではだいぶ対策がとられて出ないようになってきましたが、経済発展している国ではまだそこまで対策がとられていません。海に出ている総量としてはあまり変わらないか、増えていると思います。世界中どこに行ってもありますし、分解がきわめて遅いので、一回海に出ると10年、またはそれ以上存在し続けることになります。

レジンペレット レジンペレットの輸送経路

【写真:左からレジンペレット(新品・漂着)、プラスチック破片】
【図6:レジンペレット輸送経路】
 
びっくりメーユ
 無人島にまで流れ着いちゃうなんて、迷惑!
高田先生
 それで、いい方向に利用できないかと、これを使って環境汚染のモニタリングをしてみようと思いました。もとは油の塊なので、油に溶けやすい汚染物質がここに吸着してきて、環境汚染を調べる媒体にもなります。ペレットが5粒、0.1gほどあると、海水100 L分くらいに含まれる汚染物質を吸着していることになります。つまり、最大で100万倍に濃縮させることがわかっています。100Lの水を海で汲んで、分析するために研究室まで運ぶには大変な労力がかかりますし、水やムール貝は腐ってしまうので冷やさないといけません。プラスチックなら冷やす必要もありません。これなら封筒に入れて送ればいいでしょう。
にっこりメーユ
 採集するのに特別な技術もいらないし、市民もできますね。
高田先生
 ええ、研究者がいないような地域でもカバーできますから、インターネットでこれを拾ったら送ってくださいと呼びかけています。現在では50か国、400地点から協力を得て、20~30くらいのNGOの方々が関わってくれています。2005年から始めて10年の活動になります。

インターナショナルペレットウォッチ エアメール

■インターナショナルペレットウォッチ 世界中から研究室にレジンペレットが届いています。    
にっこりメーユ
 高田教授が今年7月に「海洋立国推進功労者賞(総理大臣賞)」を受賞されたのは、そうした活動が評価されてのことですね。
http://www.tuat.ac.jp/news/20150717141425/index.html

高田先生
 “レジンペレット”は、海にあるプラスチックゴミの中ではどこにでもあるけれど、ゴミの中ではマイナーな存在です。大きさや形が均一なのでモニタリングの媒体としては使いやすいのですが、生物への影響という点では「破片」の方がメジャーなゴミです。そういうわけで、プラスチック破片の研究も行っています。海で紫外線と熱でボロボロになり形も大きさもバラバラなので、モニタリングの素材にはなりませんが、これも汚染物質をくっつけています。ということは、プラスチック破片を取り込んだ生物に汚染物質が運ばれていることになります。生物にどれくらい汚染物質が運ばれ、たまってくるのか、モニタリングを行いながら調べていますが、その結果もわかってきました。
 市民がレジンペレットを送ってくれると、モニタリングの結果を紹介しながら「プラスチックゴミは生物にとって問題になりますよ、減らすにはどうしたらいいでしょう」、ということをお伝えしてきました。それが環境意識の啓発につながりますし、そういう活動をしたということも、ここでは評価されていると思います。

海洋立国推進功労者表彰 3R活動

【写真:総理官邸で行われた「海洋立国推進功労者賞」表彰式】前列左から3番目が高田秀重教授(功績の概要:マイクロプラスチックによる海洋汚染の研究及び海洋環境保全への貢献)前列左から2番目は東京大学大気海洋研究所の道田豊教授(功績の概要:海洋分野における国際的地位向上への貢献)
【図7:スリーアール・3つのR活動】
メーユ
 フィールドでの観測と論文発表のほか、メディアや一般市民への活動、NGOとの活動も熱心ですが、市民が「海にあるプラスチックは問題だ」と気づくことが大事なのですね。   
高田先生
 いろいろな汚染、環境問題の話は、「問題がありますよ」というだけでは解決にならないので、発生を止める、発生を抑えるということをしなくてはなりません。私たちが使っているものについては、みんなが問題に気がついて、それを減らしていけば解決していきます。
 僕らが直接使っているのではないもの、例えば泥の中にたまっていて何とかしなくてはならないものなどについては、行政に動いてもらわなければなりません。私たちが観測をして、それを行政機関に伝えて、何とかして下さいということもできますが、それはトップダウンで、もしかしたら間違ったやり方かもしれない。そういうやり方もあるとは思いますが、むしろボトムアップで、市民と行政が話し合いながらやっていくのが理想だと思います。市民が気づいて、行政にモノを言っていくことが必要です。そのバックアップといいますか、気づきを助けるための講演や講座の活動をしています。
昨日も、生協・アイコープみやぎで合成洗剤とプラスチックの話をしてきました。海のプラスチックの問題は知らない方が多く、結局は使い捨てのプラスチック、レジ袋やペットボトルを使わないようにしていくと効果がある、というお話をしました。海の中にあるプラスチックが汚染物質をくっつけて、あるいはもともと入っている添加物が溶けて、それが生物に入っているということがわかると、「自分の生活を見直さなくては」という反応が多いですね。
メーユ
 高田教授が取材を受けた新聞記事(2012年8月11日、東京新聞)で興味深いと思ったのは、「日本からの津波の引き波でアメリカやカナダに流れついた瓦礫より、普段からのプラスチック汚染の方が、実は海洋環境に結構な影響がある」との発言です。   
高田先生
 そうです、東北地方太平洋沖地震による津波の時は、一瞬にして大量に出たので量が多く見えますが、全体の量とすると、毎日僕らの暮らしから海に出ている物の方が多いと思うので、そちらの方が問題ではないかと思います。また、津波の際にもいろいろな物が陸から流れ出ましたが、木材や紙などは何年かすれば分解されていくものの、プラスチックは残っていきます。その中には使い捨ての物もありますが、「リサイクルされるから大丈夫だろう」と思って使っていたものもありますね。
 生活のあらゆる場所にプラスチックが浸透していて、それが震災の漂流ゴミになってしまったと、被災地の方々は身をもって理解していますね。やはり悲惨な体験をした方々は、いろいろなことがよくわかっていると思います。逆に関東にいる僕ら、研究をやっていたりすれば汚染のことはわかりますけど、被災していない地域の方が問題に疎いかもしれません。講座でお話ししたりすると市民感覚がよくわかって勉強になります。こちらもどういうことを調べなければならないか、そしてどういうふうにお伝えしていかなければならないか、ということがわかってよいと思っています。   
考えるメーユ
 ……もしこれが江戸時代頃の津波だったら、被害の内容もまた違ったものだったかもしれないのですね。今、東北地方では復興のため、新しく町を作っていますが、今までより良くなるようにしないといけないですね。 
高田先生
 そうですね。建築資材等にもプラスチックが多用されているので、そういう生活全般、土台になるような部分で使われていることも考え直さないといけないと思います。建築の方も関心を持ってくれていますし、通信会社なども、地中に埋めているプラスチックのパイプやケーブルについても素材を見直していこうと検討しています。化学物質を作る企業の方などとも話をしています。
にっこりメーユ
 企業の方が気づいてくれるというのも大きな力ですね。最後に、東北の方々へのメッセージや、今後の展望を聞かせて下さい。  
高田先生
 4~5年間調査を行ってきましたが、震災直後の1~2年の汚染の状態からすると、津波による汚染という点においては良くなってきているので、海産物も含めて安心して食べられるし、漁業もできる状態になってきたと思います。ただ、もう少し長期的に考えて、これからまた汚染が起こらないように、今後の対策も考えていける時期になってきたと思います。
 例えば先ほどお話した海底にたまっているものをなるべく取り除く、また上からきれいな砂で埋めるなどして、巻き上がらないようにすることですね。それから今度は復興が進んで来て、環境負荷を考えながら物を作っていかないと、震災以前より悪い状態になることも考えられます。アインシュタインの言葉に、「利口な人は問題を解決する。賢明な人は問題を避ける」というのがあります。これからの街づくりをどう進めたらよいか、プラスチックや汚染源となる物質を使わずに、人々が豊かに生活していくにはどうしたらよいか、そうしたことを一緒に考えていきましょう。
 NHKクローズアップ現代(2015年10月29日放送)に、高田教授が出演しました。
“海に漂う見えないゴミ”~マイクロプラスチックの脅威~


インタビューを終えて

 今回同行した小川班長に高田教授との関係をたずねてみました。「偉大なる先輩。いろいろなことを学びました」。一方高田教授は、「農工大に私が助手として来たとき、卒論の学生さんでした。東京湾の調査などを一緒に行っていました。今よりよく飲んでいましたね」。お互いに顔を見合わせて意味深な笑いを浮かべていました。
 震災後半年から1年までは、高田研究室も節電などの理由から機械が動かせず、実験が出来ない状態が続いていたそうです。自分たちの活動を維持するのがやっとという中で、一方の東北では地震と津波にともなった汚染が予想され、何かしなければという歯がゆい思いでいたところ、プロジェクトが始まったとのこと。「汚染物質も調べるということで声をかけて頂き、非常にありがたいと思っています」。小川班長はあらためて、「私たちの研究は、最先端の、つまり高感度・高精度の技術を総動員してこれを調べているのだけれども、それをやることにどういう意味があるのかということを丁寧に説明していかなければならないと思います。」と話しました。
 震災から4年半を迎えた今、地震と津波の影響や海洋汚染は落ち着いてきたように見えますが、今後は環境を保全しながら町の復興を進めること、また漁業資源を維持しながら人々の暮らしを営んでいくことが重要と考え、研究者たちは息の長い調査研究と、市民との活動を続けています。

 研究室で

【写真左:東京農工大学 高田研究室にて。高田秀重教授(右)と小川浩史准教授(左)】
【写真右:同じく研究室にて。海洋立国推進者功労者賞(総理大臣賞)の受賞後に撮影 】

 

取材日: 2015 年 9 月 9 日 (構成 / イラスト: 渡部寿賀子 協力:水川薫子・今村綾子)